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安禄山―「安史の乱」を起こしたソグド人



『安禄山―「安史の乱」を起こしたソグド人(世界史リブレット人) 』 森部豊 山川出版社

内容紹介(「BOOK」データベースより)
唐朝を大いに乱し、その後の唐の衰退のきっかけをつくったとイメージされる安禄山。しかし中国史の枠から離れてみると、ダイナミックな彼の人生が浮かび上がってくる。東ユーラシアに広がるソグドネットワークを利用した情報収集力と蓄財力。そして突厥の有力氏族の血を引くことを背景に、聖俗両面の権威をもって遊牧諸族を統率する力。8世紀の東ユーラシアの歴史の動きのなかで、安禄山をとらえなおしていく。


生没年は705年 - 757年
李白や杜甫など盛唐の詩や詩人について読んでいると避けて通れないのが「安史の乱」。多くの詩人がこの乱によって人生に暗い影を落としている。ではその乱の張本人、安禄山とは如何なる人物だったのか気になったので読んでみた。

以下は自分なりの要約とところどころ感想








副題にある「ソグド人」とは中央アジアに住んでいたイラン系の種族。中央アジアの現在のウズべキスタン東部とタジキスタンの一部でサマルカンド、ブハラ、タシュケントなどの都市が今も残っている。そこを流れるザラフシャン川の流域のことを「ソグディアナ」と呼ぶらしくソグドという呼び方はそこから来ているよう。

この地域は環境的な原因で商業が栄え、ソグド人は商業の民となり中央アジア全体だけでなく、北中国へも広がっていったのだった。

ソグド人は鼻が高く、彫りが深く、ひげが濃いっていうので我々が通常イメージする中国人とは違うわけですね。

ソグド人は「突厥」にも深く入り込んでいた。突厥とは北アジアから中央アジアまで支配したトルコ系の遊牧民およびその国家の名称。唐の太宗の時代、一度滅んだがその後復活してまた国を建てる。「安史の乱」のころには再び滅んでいる。

安禄山は突厥とソグド人の混血で、初めは突厥側にいたのだが、その後、唐へ亡命する。
安禄山一族は突厥と唐の両方に仕えていたのでこの亡命はそんなに困難なものではなかったのかな。一族が敵対する国に分かれて使えるというのは一族の安全保障の観点から、この当時ではよくあったことらしい。まあ日本でも真田親子のような例もあるからね。

亡命後、安禄山は幽州節度使の張守珪に近づき、取り立てられる。そこから軍功を積みあげて平盧節度使まで昇り詰める。

節度使とは辺境防衛のために置かれた軍みたいなもんかな。この時は唐全体で10こしかないのでそこのトップということはかなりの地位でしょう。安禄山が節度使になれたのは軍功のほかにもう一つの側面があり、当時の政治状況も関係していた。それは宰相の李林甫が自分に対抗できる人物の出現を阻止し権勢を維持するためという面。ともかく安禄山挙兵の際は10の節度使のうち3つも束ねていたっていうのだからかなりの軍勢だった。15万人くらいらしい。

ソグド商人は各地にコロニーを形成しネットワークを有していて活発な東西交易をおこなってた。安禄山の資金源にもなっていたようだ。安禄山はソグド人の信仰するゾロアスター教を使い自らを神になぞらえることで彼らの盟主の立場になり、彼らを束ねた。
他の遊牧騎馬民族も傘下に収めていたが、安禄山個人のカリスマとともに各民族の唐からの独立という夢もあったようだ。

挙兵後、洛陽を陥落させ皇帝に即位するもあえなく味方に暗殺されてしまう。失明し、悪性の腫瘍ができた影響からか周りに粗暴に振舞っていたため恨みを買ってしまったからだった。

安史の乱を「征服王朝」の先行形態としてとらえる視点がある。騎馬遊牧民の勢力は、その強力な騎馬軍事力を支柱とし、大人口の農耕民・都市民を擁する地域を、少ない人口で安定的に支配する組織的なノウハウを完成し文字文化も取得して支配システムを構築し、「中央ユーラシア型国家(征服王朝)」を出現させていく。契丹(遼)、西夏王国、甘州ウイグル王国、西ウイグル王国、カラ=ハン朝、ガズナ朝、セルジューク朝、ハザール帝国などがこれに当たる。

安禄山の死後、安禄山軍のトップが次々に替り乱自体はおよそ10年近くで終わるが、唐は投降した安禄山の旧将に懐柔する目的で節度使の地位を与える。彼らの治めた地域は「河朔の三鎮」と呼ばれ唐から半独立状態になってしまう。安禄山に対する信仰もしっかりと根付いた。

この「河朔の三鎮」がのちに契丹(遼)や五代十国のもとに繋がっていく。安禄山の遺産は「征服王朝」すなわち中央ユーラシア型国家の誕生につながっていく。安禄山や「安史の乱」を再評価するには、そののちの時代も視野にいれてみなおす必要がある。


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by espiegle8poseidon | 2017-05-26 22:34 | 書評

自分が聴いた落語の感想など


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